はじめての海外旅行の思い出②

polnareff2005-09-03

 「とりあえずお前は一人でタクシーに乗って、エルミタ通りのAホテルを目指せ」と歩きながらO氏。「街の景色を見ながら、ゆっくり来い」と彼が手を振って消えた雑踏から手ぐすね引いた巨漢のタクシー運転手がニヤリ。とりあえず未知の国の未知の町へ向かうタクシーの窓は、信号待ちの度に窓拭きや花売りの幼児に占められ、ドアを開けて乗り込んでくる煙草売りの少年は一本バラ売り十センタボと不明の通貨を叫びながら高速のアスファルトに消え、後ろを振り向いて日本を褒め称える運転手は危険なハンドルさばきで、陥落後のサイゴンに酷似した町を抜けていく。どこまでいっても続くゴーストタウン、それは気だるそうに佇む男たちの群れと五軒と続かない町並みに点在する巨大な芥捨場の姿だ。曲芸のような活発さを誇らしげに幼児はハエの如き。泥のような日差しと腐臭の風に淀む熱帯雨林の国は無自覚に時間の死に身をゆだねているようだ。滅びた映画スタジオのような歓楽街の中心に目的のAホテルはあった。その町にそぐわぬ高層と様相を持つそのホテルへ足を踏み入れた僕が目にしたものは、しかし再び驚くべき光景なのであった。最奥のフロントを囲むように大きなスペースを持つロビーは、ブルーとピンクの間接照明でライトアップされ、その全てのソファは妙齢の女性に占められ、その人数、ざっと百数十人以上。ひとりフロントへ向かう僕に多くの視線が突き刺さるのが痛く、甲高い声が口々に「ハーイ」と呼び掛けて、ホールにこだまするのであった。続く。
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Can/Oh Year