いつの日か朱と砂

polnareff2006-11-30

不明と不在をこよなく愛す。其れを愛されるよすがと信じているからである。此れは不治の病への耽溺であろう。
カットアップの迷宮世界の222人の妻達に囲まれて玉座に鎮座せる目玉男こそ聖ポルナレフ候なり!メビウスの狂鳴画家アドルフ・ヴェルフリの名句立てに依って、諸君は陽炎とも女陰とも真空穴とも知れぬ、宇宙の真理たる歪な楕円の穿たれた果てに其れを見るであろう。奇怪にガラス体と絡む視神経をひこばえに、死魚の如き混濁に目蕩む眼球が鈍き光を放ち、再び此の世を睥睨するさまを。そして諸君は其処で耳にするのだ。かぐろき蛇の九牙が幻視させ、幻聴させ、幻惑させ、歪曲させ、途絶させ、傾倒させ、盲執させ、支配され、劫罰を科した痕跡を辿る道行の歌、直視と瞬きの奏でるいざりの歌を。
「お前を見た事があるぞ。そうだ、目玉の光りに覚えがある」
「お前の声を聞いたんだ。確かだ。忘れられない音だった」
「お前のあの顔を知っている。何も知らないあの顔を」
「お前の骨格が気にかかる。何処かに歪みがあるようだ」
「お前の希望は聞いていない。まだ、話が出来ていない」
「お前を信頼してみる。けだし、今のお前だけだ」
「お前の手の指が見たい。火を消す前に」
「お前の時間は私の時間でしかない」
「お前を消してやる。一瞬だ、お前が気づく前にだ」
②さすれば諸君は刹那の刻みが下ろした鉄槌への謳歌を耳にするであろうか。閉じ込められた気の、一斉の響鳴が地獄の寓話を語り始める。廃墟に聳える其の観覧車にて残虐史は無常の悪魔を炙り出す。血脂に濡れた刃物が放つ燻しに映えて、巨闇の慄えが曝されるのだ。獄舎より憎悪の手鎖を引き寄せ、恐ろしき沈黙に処刑を執行する者。彼こそ畸形と死滅の民、再び闇溜まりにおのれを認める者もまた同じく。普くを飲み込む併せ鏡は血族姦淫の如し。野蛮と卑怯を相殺せん無限なる鏡の乱反射にて、欺瞞の子宮が産み落とし水子に同衾の祝福が与えられる。無常の悪魔が現る時である。其れはまた諸君に共喰いの終末が訪なうことも意味する。(つづく)
(執筆:竹谷郁夫・今北正二・ポルナレフ