愛しの佐分利信第3話

polnareff2006-05-04

<<愛しの佐分利信 第3話>>

「ちゃっら〜ん!!!!!!」
 地蔵菩薩の「ワン、ツー、スリー」の掛け声に応えるこん平の声は、三途の川の水面を震わせる。しかしそれは水茎を象形した文字に遠く及ばず、こん平、遂に言霊を失ったのか、死線にて昏迷しながら、彼は自分の決め台詞が何故に「ちゃっら〜ん」なのかを思い出そうとしていた。
 昭和三十三年春、根岸の海老名家の門を叩いた彼の背に負われた米俵、その米俵の藁の一把に結ばれた、小さな銀色の鈴が奏でるきらめく音、その揺らぎの響きと気付いて、こん平、思わずおのれの痛めた声帯を呪う。
 まさに「ちゃっら〜ん」も魂の叫びとなりて、八重洲口の銀鈴を震わせ共鳴するは「おれの魂の叫び、聞いてくれへんか」と梅田花月に十数年も地縛され続けているアナーキーと誰がカバやねんロックンロールショーの出鱈目コピーバンド、紳助バンドの箍の外れた叫びという、このリアリティ。
 再び人魚姫に成り損ね、絶望の影差す魂はクロスロードでゴドーを待てば、怪路の日和も有り哉。こん平、記憶のヒダから取り出した鈴の音思い、「すずう、すずう」と家なき子の名を呼べば、便所の火事のヤケクソか悪魔は此処唯今召喚せり、鈴々舎馬風が厳粛に現れる。
「バフー!!!!!」
(つづく)