行ってらっしゃいのチュー

polnareff2005-11-21

昭和十年代の東京、浅草を拠点に生来の手器用と人並み外れた演技力を悪用し、その名を知られたスリの大物がいた。彼、伊藤忠治の鮮やかな手さばきは、相手にそれと覚られることなく、それどころか喜ばしい気分の内に仕事を終えるので、彼の尻尾を掴むのに当時の警察は大変な苦労を強いられたらしい。浅草の雑踏を徘徊する紳士に、さも偶然に友人に出逢ったように馴れ馴れしく話しかけ、二言三言、言葉を交わした後に「まっ、今日もお仕事頑張って下さい」と紳士の肩を叩いて別れる。さすれば、紳士の財布や金品、その他は雑踏に紛れ込んだ伊藤某の懐の中って按配。彼の通り名を「行ってらっしゃいのチュウ」という。
Poupee de Cire Poupee de Son
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